今、特に話題となっている「働き方」。今回のコラムでは、労働法を専門とする法学部の所浩代准教授が「長時間労働と労働法」というテーマで5回にわたってお伝えしています。その3回目です。
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(バックナンバー)
第1回:はじめに
第2回:日本人は、働きすぎ?
第4回:月80時間の残業は違法?
最終回:労働者の「いのち」を守る義務
労働時間の上限は?
前回は、日本の長時間労働の実態をデータに基づき解説しました。今回は、労働時間の適正化に向けた法規制の現状についてお話ししたいと思います。
私は、福岡大学で「労働法」の講義を担当していますが、初回の授業では、必ず学生に、「労働法の世界では、労働時間の上限は何時間と決められているでしょう?」と尋ねることにしています。大抵の学生は、この質問に「1日8時間、1週40時間です」と答えてくれます(初回は教員も緊張しますので、学生がすぐに答えてくれるとホッとします)。たしかに、労働基準法では労働時間の上限がそのように決められています。では、1日8時間を超える労働はすべて労働基準法違反になるのでしょうか。
答えは、もちろん「ノー」です。労働基準法では、使用者が、労働者の過半数を代表する者(または「過半数組合」)と、①時間外労働をさせる事由②時間外労働の対象となる業務③対象となる労働者の数④延長時間の限度⑤有効期間、について話し合い、その内容を「労使協定」(36協定)として所定の書式に記載し、これを所轄の労働基準監督署に届けた場合には、1日8時間を超えて労働者を働かせても法違反とはならないと定めています(非常事由による時間外労働も法違反とはならない)。
ただし、この労使協定において定められる延長時間の長さについては、厚生労働大臣が上限の基準(「時間外労働の限度に関する基準」)を定めており、使用者は、この基準の範囲内で、各職場の延長時間の上限を定めなければなりません。現時点(2017年1月)では、一般労働者の場合1カ月最長45時間と定められていますから、職場のマネージャーは、時間外労働がおおむね週に5時間以内に収まるように、部下の労働時間を管理する必要があります。
ところが、この労働時間のルールには、幾つかの例外があります。日本の労働時間規制が「ゆるい」と言われる所以は、その「例外」が原則のルールよりも頻繁に利用されているところにあります。この点については、次回に詳しく解説したいと思います。
所准教授の著作
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『会社でうつになったとき労働法ができること』(旬報社、2014年)
労働時間規制や過労死などに対する補償制度を、分かりやすく解説した本。コラムで紹介している法制度を、さらに詳しく知りたい方におすすめです。 -
『精神疾患と障害差別禁止法~雇用・労働分野における日米法比較研究』(旬報社、2015年)
障害差別禁止法を世界に先駆けて導入したアメリカについて研究した本。日本の障害者法制についても解説しています。じっくり法学の議論を味わいたい方におすすめします。
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